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10周年記念山行・地域研究

伊豆の忘れられた山を歩く
 
                         後藤隆徳

 10周年記念山行で、「伊豆の忘れられた山を歩く」を決定した。多くの山岳会は記念
山行で特別の山行に取り組む。海外に足を運んだり、日本アルプスの集中登山など多
彩だ。
 勿論、登山である以上、困難の追及はある。しかし、過去に於ける多くの記念山行は
色褪せた感がある。今回私は、独創的で「誰もやっていない記念山行」を実践したかっ
た。
 地元、伊豆に目を移した時、伊豆の山は、確かに低山で占められている。だが、身近
な存在であるにも関わらず、意外と知られていない山が多い事に気が付く。
 地元に居住する登山者としてそれは看過出来ない。何処かで一度、全容を解明する
必要を感じるのは自然の成り行きだった。

 「忘れられた山」とは、@ガイドブックに紹介がない。Aエアリアマップに掲載がない。
B登山記録が殆どない。C三角点がある。D登山対象になる山。と、定義した。
伊豆半島は静岡県で5分の1の広範な面積を有する。現代、一般的に「伊豆」は修善
寺町以南とされるが、「蛭ガ小島」に流された源 頼朝の頃は、三島市以南だったかも
しれない。        
 特異な半島が目を引き、殆どが山間部で平地は極めて少ない。最高峰は天城連峰・
万三郎岳(1405.6m)。千m峰は少なく、殆どがそれ以下の山である。
 が、海洋に突き出た独特の気象で全体的には低山だが、主脈には大規模なブナ林・
シャクナゲ群落。また、温暖ゆえ常緑樹のウバメガシ巨木林・ツゲ巨木林を見る。動物
もたくさん棲息している様だ。何故なら、多くの登山道の無い山に登山道並の獣道がし
っかり確保されている。
 西伊豆山塊で12月に巨大な「山蛭」を発見したが、動物が豊かな証ではないか。ま
た、火山で形成された山が多く、山麓には豊かな温泉を数多く有するのも特徴である。

 主山脈と周辺の山は大きく四つに分け研究された。万三郎岳南西の天城峠を中心
に、北西に猫越岳(ねっこだけ・1034.7m)・棚場山(753.1m)から達磨山を経て
真城山(さなぎやま・491.8m)までの西伊豆山塊。
 峠から南に猿山(999.8m)を通り、長九郎山(ちょうくろうやま・9995.7m)から婆
娑羅山(ばさらやま・608.4m)を経由し、馬夫石(まぶいし・545.0m)、更に南に向
かう南伊豆山塊。ちなみに、伊豆半島最南端の三角点は、石廊崎北の富士山(ふじや
ま・240.3m)である。
 また、峠から北東に八丁池・万三郎岳・遠笠山から鹿路庭峠(ろくろばとうげ)を通過
し、間山・古城山・冷川峠(ひえかわとうげ・鹿路庭峠から冷川峠間は仮称伊東ALPS)
から更に宇佐美(うさみ)・巣雲山辺りまでが東伊豆山塊。
一方、山脈から離れ、峠北に点在する丸山(938.1m)・天子山(607.9m)・大仁町
の高野山(たかのさん・214.7m)までを北伊豆山塊と呼んだ。

 結局、現在まだ研究途上であるが、昨年11月から約1年間で30座上った。山は極め
て地味で頂上の展望は少ない。それどころか道標は皆無、道は廃道、藪漕ぎは珍しく
ない。研究中、他の登山者に会ったことは一度も無かった。近在の低山でこの事は、奇
跡に近いが、それだけ「忘れられた山」なのだろう。
 驚いたのは、山麓に住む人々が意外と山の事を知らない事だ。山名、山道、歴史な
ど明確な回答は得られなかった。ひどい場合、町役場で山名が不明な所もあった。現
代が、如何に住民と山と結びつきが希薄になった例である。
 しかし、多くは千mに満たない里山、低山であるが手垢で汚れず、静かで、地図、磁
石を駆使しないと上れない、奥深い山の興味は尽きない。むしろ、こんな山が今、存在
していた事を「幸せ」と思う。              
 「忘れられた山」と言うことは、以前は「忘れられていなかった」ことである。だから山
奥に炭焼き跡が存在したり、明らかに段々畑だった場所もある。馬頭世観音が建立さ
れていたり、船の名が入った標柱が延々と続いたり、当時は相当「人間臭かった」と思
われる。
 伊豆の山々は基本的に「里山」である。矛盾するが、同時に低山であるが、山深い。
海から千m入れば山奥である。しかし、今は山仕事で入る人も稀になった。背景には
過疎・高齢化・人口減などが考えられる。
 だが、里山周辺には牧歌的風景が展開し、陽光が溢れ、1月で桜・梅・水仙・アロエ・
タンポポの花々が咲き、温泉が豊かな湯気を上げる。私の感じでは、既に失くしてしま
った、30年前の日本がそこにまだ存在すると思う。伊豆に来ると「幸せを感じる」。そん
な「私の伊豆」を今後も愛していきたい。

参考

1.山名は地元の方、役場、ゼンリン伊豆・天城山、昭文社・道路地図、山と高原地図・
  伊豆を参考にした。
2.東伊豆山塊・ナコウ山の一部以外、道標は全く無い。入山はくれぐれも慎重に願い
  たい。
3.伊豆には無料で入浴出来る温泉が数多く在ります。研究して楽しんで下さい。特に
  案内はしません。

伊豆の忘れられた山を歩く

10周年記念レセプション
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